Là bas

普段の日記

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夏の断片


夏が近づくと犬の散歩時間はたちまち遅くなる。
夕刻になり、それぞれの家から夕飯の良い匂いがたちのぼりはじめると
私は犬と共に外へ出かける。

今日最初に声をかけてきたのは近所のご婦人だった。
「あらまぁ、どこぞのお嬢さんかと思ったわ。綺麗になって・・・。
私の中で、あなたの記憶は小さい頃のままなのよ」
と目を細められた。
私はゆるやかに笑みをかえす。
どこの誰だったかな、とすこし考えてやめる。
犬は先へ先へと歩みたがり、私は一礼してその場をあとにした。

昼間に今年最初の蝉の鳴き声を聞いた。
緑がまぶしくなると、今年も夏がやってくるのだと感じる。
夕方になると昼間の日射しは影を潜め、
どこからともなく涼しい風が抜けていった。

人はどうして夏になると記憶を辿るのだろう、と。

この景色を何度も見たと錯覚する。
この日射しを幾度となく浴びて、風が抜ければ風鈴の音が鳴ると
人々はきっと思い込んでしまっている。
夏の景色がいつもぼんやりと薄く見えるのは、そのせいだ。
蜃気楼なんかのせいじゃない。
私もその景色に、たぶん組み込まれた1ピースにすぎないんだ。

家へ帰ると、私はバタリと畳に仰向けになった。
うっすらとした藺草の香り。
細かな段差に体をまるごとあずけ、私は天井を仰ぎみる。

ここに三人、川の字に布団をしいて寝ていたな。

大きくなっても私はなかなか一人で眠ることに慣れなくて、
夜な夜な二人の寝室へ戻っていた。
母は優しく布団をあけてくれた。

・・・私はまた記憶を辿っている。戻りもしない、あの日を思い出して
どうしたいというのだろう。
きっと夏が過ぎれば、また一年封じ込められる風景が
夏になると突然蘇るのは・・・。

多分、夏に鎌倉の家へ遊びにきていたからなんだろう。
おじいちゃんが氷を台所に飛び散らせながら
かき氷をつくってくれたこと。
庭に小さな菜園があって、トマトやらかぼちゃやら本当に食べられるのか
どうか怪しい食物が育っていたっけ。

私はあの日からどれだけの時間を過ごしてきたのだろうか。
本当は時間なんて過ぎていなくて、私の肉体だけが滅びているんじゃないか。

そう考え始めると、夏の夜は長くて、長すぎて終わらない。

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